【米雇用統計】6月の非農業部門雇用者数は20.6万人増で市場予想上振れも、失業率は4.1%に上昇

2024年7月5日(金)21:30発表(日本時間)
米国 雇用統計

【1】結果: 非農業部門雇用者数は20.6万人増で予想を上振れ、失業率は4.1%に上昇

2024年6月の米非農業部門雇用者数は前月比+20.6万人と、市場予想の+19.0万人を上回ったものの、前回結果+21.8万人(+27.2万人から修正)を下回る結果となりました。一方で、失業率は4.1%と市場予想と前回結果(ともに4.0%)を上回りました。

【図表1】非農業部門雇用者数(右軸)と失業率(左軸)の推移
出所: 米労働省労働統計局、Bloombergのデータを基にマネックス証券作成

【2】内容・注目点:労働市場の先行指標とされる派遣業の雇用者数が大幅減、賃金インフレは鈍化

米連邦準備制度理事会(FRB)は、「2つの責務(Dual Mandate)」として、「物価の安定」とともに「雇用の最大化」を掲げており、失業率や非農業部門雇用者数の結果を受けて金融政策を変更することも多いため、雇用統計の結果に注目が集まります。

そして今回、6月の米国非農業部門雇用者数(前月比)は、市場予想+19.0万人に対し、結果は+20.6万人と、健全な伸びを示しました。ただし、4月分と5月分はあわせて11.1万人の下方修正がされており、数字ほど強い印象はありません。

2023年以降、非農業部門雇用者数は17回のうち14回下方修正されており、今回の結果も次月以降下方修正される可能性があります。また、来月8月には年次基準改定の暫定値が発表される予定で、そこでも下方修正となる可能性があります(2023年8月は、同年月までの1年間で30.6万人下方修正されています)。

【図表2】2024年6月非農業部門雇用者数変化の内訳
出所:米労働省労働統計局、Bloombergのデータを基にマネックス証券作成

次に図表2の内訳をみると、今回雇用者増が多く見られたのは、政府、ヘルスケア、建設でした。非農業部門雇用者数の増加の3分の1以上を政府部門が占めており、民間で増加が著しいヘルスケアや建設も政府需要との関連が意識されます。一方で、製造業や小売で減少が見られた他、人材派遣サービスが-4.9万人と前月から大幅に減少したこともあり専門サービスが-1.7万人の減少となりました。人材派遣サービスの雇用者数は、労働市場の先行指標とされます。

過去の統計を振り返ると、2000年や2007年に人材派遣サービスの雇用者数が減少傾向になると、遅れて非農業部門雇用者数の総数も減少する傾向が見られました。足元では、人材派遣サービスの雇用者数は減少傾向にあるため、今後総数も減少に転じていく可能性があります(図表3)。

【図表3】米国非農業部門雇用者数(総数と人材派遣サービス業)の推移
出所:米労働省労働統計局、Bloombergのデータを基にマネックス証券作成

失業率は4.1%と、前回結果と市場予想(ともに4.0 %)を上回る結果で、非農業部門雇用者数の健全な伸びとは反して労働市場の軟化を示しました。人種別にみると、白人の失業率は横ばいですが、黒人・アフリカ系が2ヶ月連続で上昇、アジア系が前回3.1%から今回4.1%に急上昇しています。

【図表4】人種別の失業率の推移
出所:米労働省労働統計局、Bloombergのデータを基にマネックス証券作成

また、家計調査から正社員とパートタイムの増減をみると、6月は大きな変化は見られませんでした。ただし、依然として正社員の前年同月比伸び率はマイナス圏での推移となっており、景気後退の兆候と捉えられる状態から変化はありません。図表5から分かる通り、景気後退期には、黄色バーのパートタイムが増える一方で、青色バーの正社員が減少する傾向にあります。

【図表5】正社員とパートタイムの前年同月比%の推移
出所:米労働省労働統計局、Bloombergのデータを基にマネックス証券作成

労働参加率は、前月の62.5%から62.6%に上昇しました。また、非農業部門の平均時給は35.00ドルとなり、前年同期比で+3.9%と前回の+4.1%を下回りました。前月比でも+0.3%と、前月の+0.4%から低下しており、賃金の伸びに鈍化が見られます。

【図表6】労働参加率と平均時給(前年比)の推移
出所:米労働省労働統計局、Bloombergのデータを基にマネックス証券作成

【3】所感:労働市場の軟化は利下げを後押し、景気後退入りも意識されサーム・ルールに注目 

非農業部門雇用者数が市場予想を上回ったものの、過去分の下方修正や失業率の上昇、賃金の伸び鈍化から利下げ観測が強まり、米金利は低下、株式市場は上昇で反応しました。

労働市場は軟化しているものの適度に強いとはいえ、賃金が低下していることから利下げをのぞむFRBにとっては良い結果であったと言えるでしょう。その一方で意識されるのが、景気後退です。今回失業率が4.1%に上昇したことで、景気後退のシグナルとされるサーム・ルール景気後退指標は0.43%まで上昇しました。次回の失業率が4.2%に上昇すると、同指標は景気後退入りとされる0.5に達します。

【図表7】サーム・ルール・リセッション・メーターの推移
出所:米労働省労働統計局、Bloombergのデータを基にマネックス証券作成
※「サーム・ルール」とは、元FRBエコノミストのクラウディア・サーム氏が考案したもので、失業率の3ヶ月移動平均が、過去12ヶ月の最低値から0.5%上昇した時に景気後退が始まるとされる。

フィナンシャル・インテリジェンス部 岡_功祐

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。